映画「福田村事件」を観た

 今話題の映画、森達也監督の「福田村事件」を金沢市街地のミニシアター・シネモンドで鑑賞した。一日の上映回数は一回のみ(上映期間は3週間)、開始は10時30分という一番早い時間帯で、普段午前中に映画は観ない私だが、クラウドファンディングで一万円寄付もしたので、この作品はどうしても観たかった。

 期待通りの出来栄え、いかにも森達也監督らしい。100年前の関東大震災直後に千葉で起きた凄惨な事件(日本人の自警団が自分たちと同じ日本人9~10人を朝鮮人だと思い込み虐殺した)がテーマだが、当時と100年後の現在の状況は、じつは本質的にほとんど変わっていないことが分かる。

 演じる俳優さんたちの役割が非常に明快で、現実社会を生きる中、その立ち位置から自分の行動をつい想像してしまう。これは、予期せぬことが起きたとき、自分ならどうするか、ひしひしと身に迫りつつ問いかけてくる映画である。

 大地震の描写の物足りなさ、震災前と後の情景にほとんど変化がない、村の女性たちの都会風で現代的な容姿や振る舞い…など気になるところはある。しかし、この手の作品は今の日本映画には絶対に必要、これまで多くの社会的事件や事故がほとんど制作されなかったことこそが問題だ。

 「福田村事件」は全国で大ヒットしている。ミニシアター系が中心とはいえ、既に動員は15万人以上、収益は2億円を突破したらしい。上映が終了した場所もあるが、これから上映予定の地域もたくさんあるので、動員数と収益はさらに伸びるのは間違いない。

 動員100万人は難しいとしても、50万人は超えて欲しい。それが実現したら収益は少なくとも6~7億円に達するだろう。これで制作費は十二分に回収できるのは勿論、新たな作品制作のため資金を回すことができるはずだ。

 日本にも注目すべき題材がいっぱいあるにもかかわらず、映画会社は権力に忖度しタブーに目を瞑り、制作を怠ってきた。「福田村事件」が日本映画界の閉塞し淀んだ空気を打破する契機になって欲しい、と願わずにはいられない。

 いつもガラガラのシネモンドが午前中の上映にも関わらず満員の盛況だった。それだけ日本近代史の隠された闇に関心が高い証拠で、いつの時代でも常識ある人々は良質な真の情報に飢えているのだと確信した。