ミュージカル映画

 2016年度に制作された「ラ・ラ・ランド(La la land)」というアメリカ映画をhuluの配信で観たが、これはとても魅力的な素晴らしい作品だった。現在のロサンゼルスを舞台に、俳優を夢見る女性と、自ら演奏もできる本格的なジャズBarの経営を夢見る男性の、ロマンティックなおとぎ話のようなミュージカル。 

 歌や踊りの場面はノーカットのロングショットで当然だが、それより鮮やかな色彩と洗練された撮影技法、そして凝った演出がとても印象的で、ラストはフランス映画「シェルブールの雨傘」のようで切ない。ただ、別れたとはいえ夢見る二人が共に成功する物語はいかにもハリウッド的。

 芸術性をより高め、人生観をより深めたかったら、別離する二人になおかつ、どちらか一方の夢が挫折するか、あるいは二人とも都落ちする物語にした方が遥かに現実的で説得力がある。しかし、そんな結末ではヒットを狙うハリウッドの製作者は許さないだろうけど。 

 ミュージカル映画といえば小学校のとき団体鑑賞した「サウンド・オブ・ミュージック」が私にとって最初の出会い。感動的だったが、その時はミュージカルというジャンルを意識する以上に、ただただ大きなスクリーンで映画が観られるという喜びのみに浸っていた。

 その後、一人で劇場へ足を運ぶようになってからリバイバル上映された「ウエスト・サイド物語」が何と言っても強烈だった。ミュージカル映画といえばまず第一に「ウエスト・サイド物語」。それほどこの作品の歌と踊りは見事だった。 

 ウエスト・サイド物語が初めて日本公開された時は大ヒットして東京の劇場で一年半近くもロングラン上映されたらしく、さらにこれを観たダンスの世界に憧れる若者たちは一部を除き、多くがとても叶わないと夢を諦めたという逸話が残っている。 

 それにしても、なぜ本格的なミュージカル映画が日本では誕生しないのだろう。西洋の真似ではない日本独自の歌謡ミュージカル映画が製作され、それがヒットしても不思議じゃない。とはいえ、やはり肝心なのは脚本。努力しても報われない人々に焦点を当て、社会批判の要素を含む脚本で、大勢の弱者の共感を呼べるような日本のミュージカル映画を是非観たい。