時間と空間に金を払う

 繁華街を歩けば多くの飲食店が建ち並び、それらの多くに券売機やテレビが設置されているのを見るが、正直そんな店には入りたくない。券売機やテレビは味気なくじつに没個性的で、場の雰囲気を壊す典型的な代物だ。特に、それらを設置していけない場所はBarである。

 人が自分の家でなくわざわざ外で飲食するのは、たまには日常から離れ、非日常を体験したいから。券売機には感情がなくいかにも冷たいし、テレビはもうほとんど日常そのものではないか。

 私はテレビが嫌いで約1年前に処分したが、くだらないテレビ番組の影響を受けなくなり心身とも健康である。気分転換に外で飲食しようと出かけて、もし入った店にテレビが点いていたら、そのせいで以前の自分の家に逆戻りしたような気分にさせられる。

 ラーメン店や居酒屋など飲食する場所は多いが、その中で最も非日常を味わえるのはBarだろう。ビールやワインやウイスキーが一杯1000円近くもする場所へなぜ出向くのか。酒を飲みたければ家で好きなだけ飲めば全然安上がりだが、そうせずにBarに行くのは異次元の世界に短時間でも浸りたいから。

 Barとは自宅や会社とは違う別世界なのだ。日常とは違う時空で寛ぎたいからこそ高い値段を払ってまで足を運ぶ。もし入口にビールやウイスキーやカクテルの食券を購入せねばならないとしたら、もう誰もBarなんかに行かないし、せっかく入ったのにテレビが点いていたら本当に白ける。

 近年の物価高と外国人観光客の増加からBarの様相も変わりつつある。いくら雰囲気の良い店でも、2~3杯飲んで、ちょっとおつまみ食べて、それで4000円以上徴収されるとしたらとても頻繁に足を運べない。さらに、周りが外国人だらけで話が通じず、かつての馴染み客が見かけなくなってきた。