何人も殺した

 私がサラリーマンとして表向き真面目? に勤めていた頃、ずいぶん昔のことになるが…。もう、時効になったと思うから正直に話すけど、じつは私は、自分に比較的身近な人を何人も殺した。

 好きな仕事じゃなかった。朝、起きるのが辛かった。会社に行きたくなかった。そこで会社には「親戚が死んで葬式に行くので、今日は休ませてください」と、電話を入れて度々休んだ。こうして、あちこちの親戚らしきおじさんやおばさんを何人も殺してきた。もちろん「親戚が死んで〜」なんていうのは真っ赤なウソ。これは紛れもないズル休みだった。

 そんな何度もウソをついてズル休みをしたある日のこと、早くから外出するのは気が引け午前中は部屋でおとなしくしていたが、午後になってからなぜか平日の銀座周辺を散策したくなり、有楽町の映画街をブラブラするうち、たまたま「ロミーとミッシェルの場合(1997年制作/監督デヴィッド・マーキン/米国)」という作品を上映する劇場に入った。

 予備知識はなかった。美しい女性二人のポスターに惹かれたのかもしれない。ところがこれが、メチャクチャ面白く、あまりに面白かったので、つづけて二回鑑賞してしまった。

 これは「おバカ映画」のコメディ作品だが、高校時代のエリートと出来損ないとが10年後には逆転するというストーリーが痛快で、自分も出来損ないの高校生だったからとても共感できた。全編に流れる80年代ポップスもノリノリで心地良かった。そして、ロミー役を演じたミラ・ソルビィーノをいっぺんに好きになってしまった。

 劇場を出たとき外はもうすっかり暗くなり、そのまま馴染みのバーに足を運び、今日観た映画について一方的に喋りまくったような気がする。

 ふつう、ズル休みをすると後ろめたい気持ちに苛まれるが、この映画を観る前と観た後とで気分がスッカリ逆転した。観終わった後、とても清々しい気持ちになり、そして今日はズル休みをしてつくづく良かったと納得した。なぜなら、もしズル休みをしなければ映画「ロミーとミッシェルの場合」に出会うことはなかったろうから。

 だから、サラリーマンの皆さんに訴えたい。会社に命令されるままクソ真面目に働く必要などありません。たまには人を殺してズル休みしてはいかがでしょうか。予期せぬ明るい出来事に巡り会えるかもしれませんよ。