007最新作に寄せて

 007シリーズはこれまで全部ロードショーや名画座で観てるので、最新作「ノー・タイム・トゥ・ダイ」もどうしても劇場で観たかった。公開されて一ヶ月半以上が経過、雨の日は外出したくなかったから晴れた日曜日に鑑賞。ただし日曜は20:00のレイトショーのみ上映、さすがに観客は少なくちょっと寂しかった。

 「時間が空いたのでちょっとアクション物でも鑑賞してみるか、007はあまり観てないし特別な思い入れもないけど…」そんな人が最新作「ノー・タイム・トゥー・ダイ」を観たら、おそらく中身の本質はサッパリ分からないだろう。派手なカーチェイスや銃撃戦などアクションだけが目立ち「何となく面白かった」だけで終わるかもしれない。

 このダニエル・クレイグの最新作及び最終作は、彼の過去4作を時系列で観てないと理解できないように作られ、全11時間に渡る一本の007映画と認識すべきなのだ。だから最後の3時間弱だけ接したところで理解できるはずがない。

 さらに過去に遡り、もう一本第6作「女王陛下の007」も必ず観ておいた方がいい。なぜなら「女王陛下~」と「ノー・タイム~」は敵の細菌兵器が共通要素など合わせ鏡的で、男女の立場を逆転させ、非常に意味深なのである。第6作の主題歌ルイ・アームストロングの「愛はすべてを超えて」が今作品のエンディングでも流れ両作品を固く結びつける。

 1960年代初期からスタートした007シリーズ、およそ60年間かけて25作品制作されたが、時代の変遷、社会情勢に併せ、作品の中身も変化してきた。

 最新作の「ノー・タイム~」では派手なアクションだけでなく、なんとジェームズ・ボンドが台所に立って包丁を握るし、秘密兵器を開発するQが同性愛者かと示唆される場面も描かれたり、女性差別やLGBTQ等に配慮された内容にもなっている。

 1960年代のショーン・コネリーが演じた硬派の初代ジェームズ・ボンド像を、もし今現在ソックリ登場させたならおそらく世界中で批判されるのは間違いない。時代は進み、1990年代のピアース・ブロスナン演じた五代目ジェームズ・ボンドは、冷戦も終わり混沌化する世界情勢の中、柔軟で強かだが悩めるスパイ像を演じて印象深かった。

 出来が悪い作品も多いが、007シリーズはワクワクして楽しいのは事実。次回作の新ジェームズ・ボンドがどのように描かれるのか、そしてどんな展開になるのか興味津々である。ともかくダニエル・クレイグのボンドは終了、ご苦労様でした。