恋におちて(映画)

 「恋におちて」という映画を観る。1984年米国制作、監督ウール・グロスバード、主演はロバート・デ・ニーロメリル・ストリープ。妻子ある建築技師の男性と、夫がいるイラストレーターの女性がクリスマスの夜に書店で偶然に出会い、それから自然に愛し合うようになる典型的な不倫物。

 この作品は今年に入り初めて鑑賞した映画。アップルのiTunesの映画コーナーからパソコンにダウンロードしたもので(標準画像で300円)、iTunesから映画をダウンロードしたのも初めてだった。

 デ・ニーロとストリープが繰り広げる不倫ドラマは、二人の演技が素晴らしく見応えがあった。二人の抑制された演技は大人の雰囲気を醸し出し、感情をむき出しにするドロドロ劇とは対極で、じつに爽やか。公開当時、米国内ではあまりヒットせず日本でヒットしたらしいが、決して深い関係にはなれない二人の振る舞いは確かに日本的と言えるかもしれない。

 同じ内容の不倫物を、もし今現在制作したなら、男女の絡みなど露骨に描写されるなどストレートな表現となり、視覚に訴えようとするばかりで人間の心理や情感はすっかり薄れてしまうに違いない。特に米国ではそうなるだろうし、日本でも似たようなものだろう。

 もう30年も経つのだから、デ・ニーロもストリープもまだまだ若くハツラツとしている。それでいて二人とも中年男女の落ち着きを漂わせているから、観ている方は安心できる。二人が演じた、自分本位にならず相手の気持ちを尊重しようとするそんな恋を、結婚していようと、独身であろうと、誰もがしたくなるのではないだろうか。

 二人はやがて離れ離れになるが、一年後のクリスマスの夜に最初に出会った書店で再会する。その場で挨拶を交わし、一端サヨナラをするのだが、二人は相手のことが忘れられずに再度近づき抱擁してラストを迎える。

 離別したままになるのではなく、親密になることを暗示させるラストシーンは、ある意味ハッピーエンドで、これでいいのかと一瞬思ったが、肉体関係のなかった二人だからこそこれでいいのだと納得した。(もし肉体関係があった二人なら、ラストは永遠の別れを演出すべきだ。)

 車内を始め、駅構内や発車時刻など、この作品では通勤電車が重要な役割を果たす。大勢の人々が利用すればこそ、電車における男女の出会いはロマンスを高めるに効果的である。