恋愛映画の傑作

 アクション、アドベンチャー、スリラー、ホラー、SF、コメディ、ミュージカル…映画のジャンルにはいろいろあり、もちろん「恋愛」もその中のひとつ。だがしかし、どんな作品でも男女が登場すれば濃淡の差はあれ恋愛的要素が醸し出されるので、なにも「恋愛」というジャンルなど特別に設けなくてもいいかもしれない。

 異性・同性を問わず恋愛はあまりに広い範囲に渡るため、恋愛的要素の無い特殊な作品(「遊星からの物体X」や「大脱走」など)を除けば、ほとんどが恋愛映画と呼んでも差し支えない。おそらく90%以上の映画には恋愛がからむだろうから「映画とは恋愛映画である」と極論してもいいくらいだ。

 これまで特に印象に残った恋愛映画をいくつか挙げると、外国作品では「旅情」「シェーン」「ローマの休日」「冒険者たち」「離愁」「恋におちて」などすぐ浮かんでくるし、日本作品では「無法松の一生」「近松物語」「西鶴一代女」「浮雲」「乱れる」「心中天網島」などが思い出深い。

 西部劇の「シェーン」だが、ジーン・アーサー扮する人妻マリアンとアラン・ラッド扮する流れ者シェーンの、時間の流れとともに二人が自制しつつ互いに惹かれ合う一連の描写がじつに秀逸。少年ジョーイのいじらしい存在感や、派手な格闘シーンやガンファイトなど、西部劇の傑作として「シェーン」はあまりに有名。でも、私にとってこれは見事な恋愛映画。

 古いものばかり選んだが、これら作品に露骨な性描写はもちろん皆無。もし性描写がわずかでも挟まれていたら評価は著しく違ったかもしれない。むしろ性描写などないからこそ作品に奥行と幅が生まれた。

 それにしても、日本の恋愛映画は総じて情がからみ暗く湿っぽい印象が強く、欧米の映画の多くはたとえそれが別離や悲恋でもカラッとして爽やかな印象を残す。歴史や文化の違いからくるのだろうけど…。

 狭い価値観に捉われた恋愛は浅はかで説得力はない。多様な価値観を促し深みがあり、しかも明るく爽やか、そんな日本の恋愛映画をたくさん観たいと思う。