妄想力

 「○○力」という力(ちから)を表題にした本が数多く出版されている。その手の類や、ハウ・ツー物などほとんど手にしない私だから実態は知らないが、おそらくは「妄想力」というタイトル本もあるに違いない。

 本の中身はいざ知らず、妄想に関してこれは非常に大切な要素である。妄想こそが人生の源だと宣言してもいいくらいだ。それは、豊かな人生を送るために最も必要な想像力の土台を成すものだからだ。

 想像力と書くと知的で高尚なイメージを抱きがちだが、妄想力にはエリートの匂いはなく何もかもをグツグツ煮こんで毒気を充満させるかのよう。妄想の世界とはグチャグチャ、ムチャクチャ、ドロドロの混沌世界。妄想に耽ることができてこそ真の解放、自由、快楽だ。

 起きて、食べて、用を出し、そして寝る。人間の生活なんて毎日同じことの繰り返し。月日とともに時間の経つのが早く感じて、同じ繰り返しが益々単調になるばかり。外から見ていると人間の営みはなんだか空しいが、しかし、だからこそ内面までが空しくなってはまずいだろう。

 心と頭を連動させ、たとえ外見は単調に見えようとも、内面は、複雑怪奇、魑魅魍魎、酒池肉林の世界を拡大深化させようではないか。もの静かで落ち着いた人間こそ、荒々しく動乱の内面を抱え込む。