モナリザと真珠の耳飾りの少女

 フェルメールの全作品を展示した『フェルメール 光の王国展』が金沢のデパートで開催された。ただし、これはデジタル技術で当時の光と色彩を完全再現した複製品の展覧会である。

 全37点中映画化もされた「真珠の耳飾りの少女」は特に有名で、これなど絵画に詳しくない人でも知っているだろう。女性の肖像画を鑑賞すると、どうしてもダ・ヴィンチの「モナリザ」と比較したくなる。

 「真珠の耳飾りの少女」はとても美しい絵画だが、しかし「モナリザ」の神秘性には敵わない。絵画のような美術に限らず、表現された作品の価値基準の大きな要素は謎の深度にある。つまり、「得体の知れない」謎でどれだけ多くの人々を惹きつけられるか。

 「モナリザ」のモデルは誰だったのか。リザ・デル・ジョコンドというフィレンツェの裕福な商人の妻という説が有力だが、じつはダ・ヴィンチの自画像という説もあるし、内側に潜む両性具有性を暴いた「髭の生えたモナリザマルセル・デュシャン作)」というパロディ作品まで作られている。

 鼻が少し長くて謎めいた微笑の「モナリザ」に比べ、「真珠の耳飾りの少女」はいかにも身近なお嬢さんを描いたという感じ。少女の面影を残す若い女性は誰だったの? と探求したくなる欲望が特に湧いてはこない。これはとても上品で真面目な作品なのだと思う。

 東京と違い美術鑑賞の環境に恵まれない金沢で、たとえ複製品だろうとフェルメールの絵画を原寸大で全作品鑑賞できたことは私には有意義だった。今やインターネットで世界中の絵画が鑑賞できる時代となり便利になったとはいえ、あたりまえだが本物に接してみたい気持ちに変わりはない。

 私の夢は世界中の美術館を見学して回ること。もちろん全てを巡ることは不可能。それでも、ルーブルやエルミタージュやプラド、メトロポリタンやニューヨーク近代美術館などには憧れる。日本では倉敷の大原美術館にはいつの日か是非足を運びたい。

 中世・近代の古典作品もいいが、なにより現代美術が面白い。時代の最先端を走る、美術館外で暗躍するバンクシーのような「得体の知れない」存在に興味津々だ。