アメリカ文化と私

 ここで言う「アメリカ」は北米の合州国のことだが、振り返れば私なんか若い頃からアメリカ的なものに染まって生活していた。鑑賞する映画はアメリカ作品ばかりだったし、音楽も洋楽は英米のポップスが中心、外国のテレビ番組もアメリカのホームドラマや刑事物や西部劇ばかりだった。

 金沢という地方都市で育った私にとって外国のイメージは即アメリカであった。私に限らず、私と同世代や団塊の世代にとって、アメリカからの影響は絶大だった。アメリカにはなによりも自由のイメージがあり、それは日本より一歩も二歩も進んでいたように思えた。

 たがしかし、アメリカは広大な国であり、冷静に見つめるなら私はアメリカ全土から影響を受けていたわけではなく、それは西海岸のカリフォルニアとニューヨークを中心とした東海岸の一部からに過ぎず、大部分を占める中西部や南部の保守的なアメリカの風土を私はほとんど知らなかった。

 さて、「アメリカ文化〜」と題にしてみたものの、果たしてそれは一体なにか? そもそも文化とはなんだろう? 文化は決して政治権力から与えられるものではない。文化とは長い時間をかけて庶民生活から芽生え根づいた価値観であり、それは庶民の意識とともに少しずつ変わってゆくものだ。

 歴史が浅く移民の国アメリカに文化らしきものがあったかな? 言葉はイギリス語だし、個性的な料理なんてないし、ほとんどがヨーロッパから受け継いだものばかり。拳銃をぶっ放すことがまさか文化だなんて自慢できるわけがない。アメリカに文化はないのか? いや、そんなことはない。アメリカにも立派な文化が存在する。それは音楽のジャズと衣類のジーンズだ。

 若い国アメリカだが、しかしジャズとジーンズは社会の底辺から誕生し、現在まで世界中に広まった見事な文化ではないだろうか。私はジャズを聴くのが大好きだし、毎日ジーンズばかり履いて生活している(スーツとネクタイは大嫌い、冠婚葬祭にしか着ない)。

 どこの国や地域の文化も尊重したい。しかし一方、どこの国や地域の権力に対しても常に批判的でいたい。なぜなら権力は放っておくと必ず腐敗し、そして文化を歪める。私はたまたま日本という国で暮らし、アメリカから直接影響を受けてきた。だからこそ日本とアメリカの権力には特に厳しい目でこれからも臨みたい、と自らに言い聞かせる。