新しい一歩を踏み出してもいい頃じゃないか

 私はたまたま日本と呼ばれる国・地域で暮らしているが、そんな「日本」にこだわる言論が周囲に蔓延している。「日本民族」とか「日本人の誇り」とか「日本人に生まれて良かった」とか。総理大臣が先頭に立って「強い日本」「日本を取り戻す」などと声高に喚くし、最近はやたら何でも、日本、日本、ときたもんだ。

 このあいだ、馴染みのBARで飲んでいると、隣に座った中年男性が「日本人の血」と盛んに口にするのでいったい何のことかと訊いてみた。すると「このままでは日本人の血が廃れる、中国や韓国・朝鮮に日本が乗っ取られるかもしれない、日本人の血を守るためもっとしっかりせねば〜」とかなんとか話し掛けてくる始末。

 そこで私は「日本人の血ねぇ、日本人うんぬんよりも、人間の血にこだわるだけで十分じゃありませんか」とやんわり応えたが、私の言わんとする意味が隣の男性に通じたのかどうか分からない。最近こういう右翼思想丸出しの人間がずいぶん増えてきたようだ。

 いや、増えてきたというより、もともと社会に潜在していたが、バブル崩壊後の20年あまりの不況で不満が増幅するとともに、視野の狭い人々の単純思考回路もインターネットで表現の場をかろうじて獲得できたことから、さらに安倍晋三のトップ返り咲きとも重なり堂々と大手を振ることができるようになったのだろう。

 それにしても、日本、日本、と叫びたがるこの風潮は、インターネットが発展する21世紀にもかかわらずなんとも古臭い。右翼思想なんて古代・紀元前の発想だが、なぜかそんな時代のギャップを引きずりながら現在を生きる大人たちの多いこと。右翼単純思考回路の持ち主が、インターネットという便利な表現の場を得たことから自分の憂さ晴らしとして利用する。「ネトウヨ」が蔓延する理由が何となく分かる。

 インターネットが全盛とはいえ普及してまだ30年にも満たない。これはひとりの人間の平均寿命よりもまだまだはるかに短く、インターネットも100年は経過しないと本物にはなれないかも。

 でも、もうそろそろ、新しい一歩を踏み出してもいい頃じゃないか。21世紀に相応しい思考回路を発展させようじゃないか。ともかく、底が浅く窮屈で狭苦しい単純な右翼思想からはオサラバしようぜ。