コペルニクス的転回

 これまでの価値観がガラリとひっくり返ることをコペルニクス的転回と呼ぶ。哲学者カントの認識論から派生した言葉らしい。

 長い期間支配的であった天動説に対し地動説を唱えたコペルニクスはあまりに有名だ。確かに、無知な人間が日常生活を送りながら毎日空を見上げるかぎり、太陽は常に東から昇り西へ沈むので、じつは自分の立つ地面の方こそが太陽の周りをグルグル回っているとは、とても想像できないだろう。だが、凡人には想像できない領域にこそ真実はある。

 天動説から地動説という価値観の転換は非常に分かりやすい例だ。歴史を振り返れば、常に価値観の転換が繰り返されて来た。大きな事件や事故が歴史を彩るが、なんといっても科学や哲学や芸術の分野で、これまでの常識が覆されて来たことこそが歴史だと言える。

 現代の科学では、20世紀初頭におけるアインシュタインの「特殊・一般相対性理論」や、量子力学の発展に寄与したハイゼンベルクの「不確定性原理」など、コペルニクス的転回と呼ぶに相応しい価値があると思う。

 こうして世界は常に変化に富んで来たにもかかわらず、しかし残念ながら、なぜか「領土」に関する価値観だけは古来から全く変わらない。「竹島(独島)」や「尖閣諸島」における日本、韓国、中国の動きを見る限り、「自分の領土」「愛国」が一人歩きして突出する。紀元前の大昔から現在に至るまで領土紛争は絶えなかったし、その度に愛国がのさばり支配的となる。

 日本も韓国も中国も、米国もロシアも、その他世界中の国々が、こと領土に関しては他者をことごとく排斥したがる。長い目でみれば「大陸移動説」を持ち出すまでもなく地形は変わってゆくし、短期間で国家は分裂したり統合したり、国境線はいい加減で不変の地図など存在しない。

 価値観を国家や領土に置くべきではない。ひとり一人の個人と世界全体にこそ価値観を移動すべきだが、言葉にするほどそれが簡単でないことは分かる。要はひとり一人の人間の心の問題に行き着く。地球が中心ではなく、地球は太陽の周りを回っているように、自分や自国は中心ではないのだ。人間の心にはコペルニクス的転回がいつも求められている。