魚食系を生きる

 「草食系」とか「肉食系」という言葉が流行りだして何年経つだろう? 世間的には定着しているようだ。しかし流行に疎い私には草食系と肉食系の違いについて何となくイメージは湧くがキチンと定義できない。ちょっと調べてみたが、どうやら草食系とは性格的には穏やかで優しく恋愛に関しては消極的、対して肉食系はその逆ということらしい。

 それらは最近の主に若い男性の行動様式からの造語らしく、私のような中高年に当てはめてもあまり意味はなさそうだ。それでも昔を振り返り、果たして私はどちらのタイプだったろうかと考える。しかし、現在の草食系も肉食系もある程度の生活水準におけるタイプの違いに過ぎず、イジケて普通以下の生活を送った私の若い頃と比べるのはズレた感覚なのだろう。

 それにしても――といつも思う。どうして世間は何でも二項対立させたがるのか。敵と味方とか、善と悪とか、スポーツや映画の世界では分かりやすくてそれでいいのかもしれないが、実際はもっと錯綜して複雑に絡み合っており単純な色分けは禁物だ。せめて第三極を示さないと調和せず安定しない。

 当初からの疑問。草食系と肉食系があるなら、なぜ「魚食系」がないのか。野菜や肉だけでなく、魚介類も摂らないと栄養バランスが悪いように、もし人間を色分けするなら、草食系と肉食系、そして魚食系がなければおかしい。

 そこで、若い時分から斜めに構えていた私は、自分を勝手に魚食系に当てはめることにする。魚食系とは性格的にひねくれたところがあり恋愛に関しては包括的。ただこれは、真っすぐで一途な若い世代に当てはめることは難しいかもしれない。若い時分は草食系か肉食系で、年を取るとともに魚食系になってゆくのだ。

 いや、誰もが魚食系になれるわけではない。大人になるにしたがい世間に妥協し反抗心が失われるならそれは単なる腐食系だ。年齢を重ねるほどしなやかにしたたかに、世間という水中を柔軟に泳ぎ回れる魚食系として生き伸びたい。