普通ってなんだ

ミステリー小説なんかを読み始めると――

 「都内○○区の分譲マンションで暮らす一家4人は、52才の父親と48才の母親、そして23才の息子と18才の娘。父親は一流電機会社の営業部長、母親は専業主婦。中間管理職の夫は上司と部下の板挟みで気苦労が絶えない。一方、妻の方は夫の気持ちを汲み取ろうともせず暇を持て余し気味、刺激を求めてパートに出てみようかと最近考えている。息子は有名大学の経済学部を今期卒業、金融関係の職場で働く社会人一年生。高校3年の娘は某女子大を目指し猛勉強中、将来はマスコミ関係に就職を希望とのこと。一家の車はトヨタプリウス。ときどき家族揃って近場へ旅行に出かけたりもする。
  私鉄駅に近い閑静な住宅地に囲まれた、そんなどこにでもあるごく普通の一般家庭。いつもと同じように平穏無事な一日が過ぎ去ろうとしていたが、夜遅くに予期せぬ出来事が起きる・・・。」

 冒頭から以上のような描写が出てくるのだが、まずこの出だしで私などは違和感を抱く。首を傾げざるを得ないのは、どうしてこれが普通の家庭なのか? ということだ。上記のような家庭は普通ではなく、私から言わせれば相当ハイレベルである。私が貧乏人だからそう思うのか。

 私が小説家なら普通の家庭とは以下のようになるだろう――

  「都内○○区の賃貸アパートで暮らす一家4人は、52才の父親と48才の母親、そして23才の息子と18才の娘。父親は従業員20人ほどの町工場に勤める会社員で、母親はスーパーのパートタイマー。技能職で下済みの長かった夫は5人グループの班長。一方、妻の方は夫の賃金だけではアパート代を払うのがやっと、生活が苦しいため結婚当初から働きに出た。息子は工業高校を卒業後、自動車整備工場に就職し、はや社会人5年目。高校3年の娘は卒業してから美容師になることを夢見ている。一家の車は息子の職場を通して安く買い取った中古車一台。
  私鉄駅に近い幹線道路の傍で騒音を気にしつつ、これまで平凡になんとか4人家族は生きて来た。そんなありきたりなごく普通の一般家庭。いつもと同じように何とか一日を過ごせると思われたが、夜遅くに予期せぬ出来事が起きる・・・。」

 私には、下の描写の方がはるかに普通に思えるのだが・・・。