深刻な老後の現実

 結婚して子供ができ家庭を築いても、年月を経て、年老いた父親や母親を子供が直接面倒見てくれる保証などないし、父親か母親のどちらか先に心身が衰弱すれば、老老介護の事態になる可能性は高い。

 子供が親元を離れ自立し、遠い地方で生活しているとき、もし故郷の両親が倒れたらどうすべきか。「介護離職して親の面倒」は聞こえがいいが後で苦しむ。年金や副収入でそれなりのお金の目処が立つなら、施設へなんとか入居できるが、お金の工面ができない場合は大いに悩む。施設へ入るのが嫌で自宅で住み続けたい親にとって面倒を見てくれない人が傍にいないと本当に辛い。

 持ち家もなく年金も十分受け取れない独り身の貧乏人はどうなるか。「ピンピンコロリ」で逝ける人は稀で、今現在、人は死ぬ直前まで平均9~10カ月は寝たきりなのだそうだ。その間どうやって生きたらいいのだろう。ゴミ屋敷となり、ネズミに齧られ、ゴキブリに集られ、苦しみ悶絶しながら汚物に塗れての孤独死か。

 介護殺人という悲劇的な事件をときどき報道で目にする。それには腹を立てた子供(特に息子)が親を殺す場合と、介護疲れで夫が妻を、又は妻が夫を殺す場合とがある。

 老老介護で疲れ果て、つい相方を殺めてしまう場合は多少同情したくもなるが、しかし実態はもっと複雑、内実の見極めが必要だろう。夫が妻を殺す場合、介護がうまくいかずイライラが原因かもしれないが、妻が夫を殺す場合、イライラより積もり積もった恨みを晴らしたのかも。

 介護疲れを言い訳にする夫を安易に見逃してはならず、そんな夫は家事や育児のほとんどを妻にまかせきりだったのではないか。反対に、同じ介護疲れを理由にする妻は、おそらく夫に支配され長期間まるで奴隷のようにこき使われてきたのではないか。

 介護に関わる悲劇的な事件が目立つ。実際、介護する子供の側に問題が多いのは事実とはいえ、認知症を患った親が暴れて子供に迷惑をかける事例も聞く。

 特に認知症を患った父親が周囲に暴言を吐くという話をときどき耳にするが、そんな父親がこれまでどんな人生を送って来たか、人それぞれ性格にもよるが、何となく想像できるというもの。おそらく亭主関白、結婚しても家事や育児などにほとんど携わらず、妻をまるでお手伝いさん、家政婦、女中にしか見ようとしなかった、そんな夫の姿が見えてくる。