IT機器類に囲まれて

 車の本来の役割は、目的地まで人や物を運搬すること。人力だけで歩いたり走ったりするよりも、より速く、より多く運搬できることに車の便利さがある。しかし、車には何かを運搬するだけでなく、運転自体に意義を求めることもできる。車好きで、車が趣味の人にとって、運転そのものが楽しいのであり、運搬よりも運転が目的となる。

 ところで、パソコンやタブレットスマートフォンは、もはや私たちの生活にとって切り離せない便利で大切なIT機器類であり、ほとんどの会社や自宅で活躍している。しかし、仕事や趣味に活かされる以上に、じつはそれらの機器類には操作そのものが面白いという側面があり、マウスをクリックするだけで、指でなぞるだけで、ウェブが切り替わり次々と新たな世界が覗けるのだから楽しいのは当然だ。

 インターネットと接続したIT機器類は本当に驚くほど能力を発揮してくれるが、しかし冷静になり客観的に眺めると、人も機械も本来の役割を果たしていないようだ。豊富なアプリケーションは素晴らしいが、それらを幾つもダウンロードしたところで十分に活用しているだろうか。ほとんどのアプリはダウンロードしてからどんなものか開いて確認はするが、その時点で終っているに違いない。

 以上のような憎まれ口を叩くのは他でもなく、IT機器に素人の私などはその典型で、身の回りに一応機器類は揃えてあるものの、ほとんどが操作の段階に終始して、肝心の中身に入り奥底まで探求しようとしない。もちろん、ニュースやブログを読み、文章を書き、写真や動画や音楽を見たり聞いたり、メールでやり取りはしているが、まだまだ不十分なのだ。もったいないと思う。

 そうして、やがてしばらくすると、メーカーはまた新機種を発表し、利用者の心を揺さぶり消費を促す。バージョンアップした機種がまた欲しくなる。小出しのメーカーは商売が上手いというかズルイというか・・・まんまと私たちは操られるわけだ。

 かつてワープロ単体が普及し始めた頃、私は次から次へと新機種を買い漁り、振り返ればじつにムダな消費をしていたと反省する。しかしそんなバカな癖は決して消えたわけではなく、常に新しいモノを求める気持ちは燻っている。財布と相談しながら、私自身の問題として目的と手段を間違えないようにしなければ、とつくづく思う。