映画は映画館で観たい

 映画館の形態も様変わり、今やシネマコンプレックスシネコン)の全盛だ。設備が最新で、人の頭が邪魔にならないよう設計され、椅子もゆったりしてとても鑑賞しやすい。そんなシネコンを、私もときどき利用している。

 ところで多くのシネコンは、総合ビルの上階やショッピングセンターの一角にあり、通路の左右に幾つものスクリーンが配置されるという構図になっている。単体の建造物ではないので、劇場で映画を観るという感覚は正直薄い。それでも暗闇の中の大きなスクリーンはやはり心地良い。いかにも映画を鑑賞するという雰囲気に包まれる。このワクワク感は部屋のテレビ画面からは決して味わえない。

 以前は、名画座のお陰で昔の作品を数多く観ることができた。だが、今や地方に名画座は絶無、東京ですら数えるほどしかなくなった。東京では名画座が廃れた後はミニシアターがブームになり渋谷や新宿を中心に多くの劇場が林立したが、それも今では閉館が相次いでいるという。時代は流動的で厳しい。

 通信衛星の発達でCS放送には映画チャンネルがいくつも設けられ、自宅でいつでも気軽に映画を楽しめるようになった。昔の名画も配信してくれるので、これはこれでとてもありがたいと思う。しかし、明るい部屋で観る映画作品はどうしても印象が薄くなる。だから内容どころか、その映画を観たこと自体を忘れてしまう。

 各地で老舗の映画館が次々と閉館している。時代の流れと言ってしまえばそれまでだが、とても残念だ。貴重な劇場やミニシアターには助成金をもっと出してなんとか維持してほしい。財政危機が叫ばれるが、福祉や文化事業を削って赤字を黒字化しようとも、それは自慢にはならない。

 これからも映画上映のあり方は変化するだろう。だが、見知らぬ人同士が劇場の暗闇で一つの作品を共有するという場はとても重要で、足を運びお金を払って観る映画は、同じ作品でも自分の部屋で観る映画とは決定的に意味は異なる。映画鑑賞の基本は何といっても映画館で観ようとする行為そのものにある。