シネモンド

 金沢市香林坊という繁華街の中心部に複合商業施設「109」が建っている。その4階に「シネモンド」という映画館があり、そこは石川県内唯一のミニシアターとしてとても貴重な文化施設となっている。

 私にとって長い東京生活はいろいろ大変だったが、少なくとも映画鑑賞で苦労することはなかった。しかし、金沢へ帰郷してから環境はガラリと変わり、東京時代のように自由に映画を鑑賞することができなくなった。今流行のシネコン金沢市郊外にいくつもありロードショー作品では東京との差はそれほど感じない。だが、渋谷や新宿で自由に選択できたアート系などの作品に接することは、金沢ではなかなか困難である。

 かつて香林坊界隈には10館ほども映画館が集まり気軽に通えたのに、今現在はミニシアターのシネモンドだけ。文化都市を標榜する金沢市だが中心部に座席数が100にも満たない映画館がひとつだけという現実はあまりに寂しい。それでも映画館のない他の都市に比べれば金沢市はまだ恵まれているのだろう。

 シネモンドの作品ラインアップはアメリカのハリウッドや日本のメジャー系とは全く違い、世界各国からの個性豊かな作品群ばかりなので映画好きにはたまらない。私はハリウッド物も好きでジャンルを問わず何でも観るが、シネコンで画一的な作品に接するよりも今はシネモンドで一風変わった作品世界に浸れることに幸せを感じる。

 東京の池袋には新文芸坐という素晴らしい名画座があり、歩いて通えた私にとってホームシアターのようなものだった。東京を離れるとき、新文芸坐で映画鑑賞が出来なくなることが残念で堪らなかった。だから、金沢に帰郷した私にはシネモンドがホームシアターとなったのである。

 ところで、全国各地のミニシアターの営業は大変苦しいらしい。「映画芸術437号」に「デジタル化による日本における映画文化のミライについて」というミニシアターの厳しい現状を訴えるレポートが掲載されている。金沢市に住む映画好きな人間としてシネモンドを応援したい。具体的には実際にお金を払って観ることしかできないが、通う回数をなるべく増やすことこそが一番の応援になるはずだ。