健康と長生き

 仕事でも趣味でもいいが自分の好きなことに専念できて、しかもそれが人様の役に立つことができるならこんな素晴らしいことはない。たとえ、社会貢献から遠い自分一人だけの世界に閉じこもろうと、自分にとって興味のあることに邁進できるなら、ただそれだけで十分仕合わせだ。

 他者に迷惑をかけなければ人は好きなことをしていい。好きな世界に浸りながら長生きしたい。自分の好きなことをして長生きできるなら、それこそが最高の人生かもしれない。

 日本の平均寿命は、男性が約80歳、女性は約86歳。結構なことだ。だが、長生きの実態はどうなのか。高齢者の大多数が毎日を元気に暮らしているとは思えない。病院で療養中だったり、自宅で寝たきりだったり、たとえ身体を動かせても認知症を患ったりと、心身とも健康を維持しながら生活を営んでいる高齢者はおそらく少数だろう。
 
 長寿社会では人間の心と身体への関心が益々高くなり、だからこそ「健康ブーム」が湧き起こる。健康に気を遣うのは良いことだが、しかし長生きするため健康にこだわり過ぎたり、ましてや健康のため好きなことを犠牲にするようでは本末転倒だ。

 個人の事情は様々だから年齢に線引きはできないが、たとえば80歳を過ぎても健康に気を遣うあまり自ら好きなことを封印するようでは何のための人生かと思う。さらに元気でいてほしいからと、周囲が本人に対していろいろ制約を設けるとしたら余計なお世話だ。

 ある程度の年齢が過ぎたら、自分の好きなようにさせてあげたい。酒を飲みたいなら浴びるほど飲んだらいいし、タバコを吸いたいなら喫煙場所で嫌ほど吸えばいい。競馬やパチンコのギャンブル好きなら自分の貯蓄内で思う存分楽しめばいい。

 身体の自由が利かなくなると行動範囲は限られる。であればこそ、お年寄りには長生きした褒美として好きなことに専念させてあげよう。そのために先の寿命が短くなったって、これまで十分生きて来たのだからいいじゃないか。長生きした本人へ、もっと長生きしてほしいと親切心から周りがいろいろ注文を付けるのは、あまりに残酷だ。