刑務所への憧れ

 刑務所から出所して日が経たないうちに罪を犯し、また刑務所へ逆戻りしたというケースがときどきニュースになる。捕まった犯人が言うには、刑務所では三度の飯にありつけるし、フロにも入れ、固くてもベッドで眠れるから――。出所したばかりの人にとって世間の眼は冷たく、仕事にもありつけず、生きてゆくのは大変、まだ刑務所の方がマシとの思いに駆られるらしい。

 格差社会に翻弄された挙句、負け犬の烙印を押され、満足に食べることもできず、寝る場所さえ確保できない、身体も衰弱してゆく・・・そんな不安に苛まれる毎日を過ごすくらいなら、いっそ刑務所の中で余生を送りたくなる気持ちも分かるというもの。これは一部の限られた人々の本音というよりは、大多数の普通の人々が心のどこか片隅に抱く感情かもしれない。

 それにしても、なんて住みにくい世の中だろう。真面目に正直に生きてきたのにちっとも浮かばれない。社会が悪い、政治が悪い。もっとしっかりした人が出てきてほしい・・・。

 「もっとしっかりした人が出てきてほしい」――多くの人々がそれを願っている? 指導力と決断力がある、グイグイ引っ張ってくれる政治家が出てきて社会を改革してほしい――どうも、世間の雰囲気がそんな方向に流れているようだ。

 もう既に、そうとう末期的状況に陥っているかもしれない。刑務所とは知らなかった、というよりも、刑務所だと分かっていながら自らそこへ入りたがる。だって、刑務所なら雨風を凌げるし、三度の食事が頂けて、フロにも入れる、本も読める、仕事を与えられて小遣いも稼げる、病気になったら医者に診てもらえる・・・塀の外側よりも内側の方が断然快適じゃないか! 社会を改革して刑務所を増設してほしい!

 先日の大阪ダブル選挙で、市長も知事も橋下徹氏が率いる「維新の会」が大勝し、ついに大阪を支配下に置いた。東京では石原慎太郎氏が四期目に入った。両者は共に強いリーダーシップの持ち主というわけで絶大な人気があるらしい。

 強いリーダーシップの刑務所長の下で、大衆は徹底的に管理されたくて仕方ないのか。みんな刑務所に憧れる。古くて汚い刑務所は嫌だが、新しくて清潔な刑務所なら大歓迎というわけだ。