コウモリが飛ぶ

 夕暮れ、スーパーへの買い物ついでに河川敷を散歩しているとコウモリが飛ぶのを見かけた。辺りを見回すと、何匹もいる・・・いや、何匹どころじゃない、何十匹だ。帰郷してしばらく経った2年前のこの時期、コウモリが飛んでいるのを見かけた記憶はあまりない。この2年間で増えたのだろうか。もともとコウモリは飛んでいたが、ただ私が気づかなかっただけなのか。

 東京の、しかも池袋という街のど真ん中で長く暮らしていたせいでコウモリはほとんど見たことがなかった。だから、地方でもコウモリは激減したのだろうとの先入観があったのかもしれない。間違っていた。薄暗くなった川辺をたくさんのコウモリが飛んでいるではないか。

 コウモリが飛ぶ風景を見ていると、正直とても嬉しくなる。雑草が生え、小さな虫が蠢き、魚が泳ぎ、鳥がさえずり、蛇がくねる。昼の太陽は眩しく、夜の月光はやさしく、風がそよぎ、色とりどりの花々がゆれている。自然そのものが町の中でもまだまだ生きている証拠を実感できる。

 子供の頃、たくさんのコウモリが飛ぶ夕暮れは、夜を待たずに一日の終わりを迎えるようで寂しさが募った。孤独を紛らわすかのようにコウモリ目がけて石を投げたが当たるわけがない。コウモリの超能力は子供の私を嘲笑うかのようにスイスイ逃げて周囲を飛び回るのだった。当時、まったく意識しなかったけれど、こんな身近なところから、自然への憧憬が、脅威が、神秘が、培われていったのだと思う。