目障りな高層ビル

 東京から金沢に帰郷して最初に感じたのは空の広さで、視界がとても開けた感じがした。遠くを遮る高層ビルが少ないから当然だろう。空が広い、ただそれだけでノンビリした気分に浸れる。高層ビルが林立する大都会東京と比べると、金沢という中核都市はいかにも平坦である。

 実際、市内には、海近くの石川県庁、駅前のホテル日航金沢、武蔵が辻という繁華街にあるスカイホテル、そして市街地の中心部に聳える北國新聞社、以上四つくらいしか高層ビルはない。しかしながら、そんな数少ない高層ビルだからこそ余計に目立つのであり、その目立ち方が問題となる。

 中でも特に問題なのは真っ白な北國新聞社のビル。20階ほどだが街のド真ん中に鎮座してどこからでも見える。高いだけでなく、横幅もあり、威圧的だ。

 金沢市内には観光地として幾つかの名所があり、そのひとつが武家屋敷跡。そのすぐ近くに北國新聞社の巨大なビルが立つ。武家屋敷跡は私の散歩コースのひとつ、夕暮れ時は買物ついでによく歩く。武家屋敷の屋根や土塀の上からデカデカと北国新聞社のビルが迫ってくるが、この光景が最悪である。つくづく写真撮影でこれほど目障りで余計な被写体はない。

 どうしてこんなバカみたいなビルディングを中心部に建てたのだろう。聞くところによると、じつは建築違反らしい。ではなぜ、建築違反のビルが出来たのかといえば、昔から地元報道機関を牛耳る北國新聞社の力が作用したからだという。

 金沢は加賀百万石の典型的な城下町だ。城の天守閣は現存しないが、シンボルとして城の門は残っている。城内は広い公園になって緑が多い。つまり昔ながらの城下町として城を中心に栄えたのが金沢だが、今や市の中心に聳えるのは地元北國新聞社の真っ白い巨大高層ビル、すなわち我こそが現代の金沢城天守閣なのだ、と言わんばかりである。

 真っ白い巨大高層ビルディングなんて、金沢という古風な街の中心部には不適格。まったく似合わない。美観を損ねる。迷惑である。どこか郊外に引っ越してほしい。