空の風景

 金沢市の観光名所に「金沢21世紀美術館」がある。2004年10月に開館し、今年8月には総入場者数が1000万人を突破したそうで、近年の美術館としては大成功した部類に入るらしい。私は散歩がてらにときどき訪れては雰囲気を楽しんでいる。

 円形の美術館内は無料ゾーンと有料ゾーンとに分かれているが、いつでも気軽に立ち寄れる出入り自由な無料ゾーンの一角に「タレルの部屋」という、これは常設展示品の一つなのだが正方形の広い部屋があり、中に入り上を向くと、中央を大きく四角に切り取った天井から本物の空が見える。じつは、私はタレルの部屋で静かに空の風景を眺めるのがとても好きなのである。

 正方形に切り取られた天井は、いわゆる自然の空を写し出すカンバスであり、描かれるのは、青い空、白や灰色の雲、飛ぶ鳥、降る雨、雪の舞い・・・風や大気が四季折々を演出してくれる。タレルの部屋で眺める空は、私たちが普段外に出て何気なく眺める無限の空とは明らかに違う。天井の四角に切り取られたカンバスから眺める空は、常に動的で二度繰り返さない瞬間芸術であり、無限と有限の狭間で生きる人間の存在そのものを意識せざるを得ない。「金沢21世紀美術館」に相応しい現代アートだと思う。

 グーグルのアートプロジェクトに取り上げられる古典の美術品も好きだが、私は現代美術が大好きだ。意味が分からなくとも、何かを感じながら、時代や社会に問いかける。アートを通して現代を探ろうとする試みは非常に面白い。

 つい最近、市内のミニシアターで「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」という正体不明の覆面美術家バンクシーが監督した映画を鑑賞したが、現代アートの最先端を垣間見ることができて面白かった。前衛芸術はもはや美術館に収まるものではなく、外でゲリラ的に展開されているのだ。美術館に収まる展示品は、もうそれだけで古く体制的なのかもしれない。

 「金沢21世紀美術館」のような存在は、現代アートを紹介する重要な役割を担っているが、しかしその役割が古典を目指し収蔵を目的とするなら、本来の方向性とはまったく逆になるだろう。閉じ込められた館内から芸術を解放させるためにこそ現代美術館の役割はあるべきで、人々に自由と革命を暗示させるものこそが真の芸術に違いない。

 タレルの部屋で、空の移り変わりを眺めながらしばらくは妄想に耽るとしよう・・・。