夢の話

 睡眠中はだれもが夢を見る。最近の私は夢を見たことだけは覚えているが、どんな夢だったか忘れてしまうことが多い。それでもハッキリした夢をたまに見るが、それはほとんどが嫌な世界で目覚めたときにはホッとすることが多い。

 人生には楽しいことも辛いことも、嬉しいことも嫌なこともある。いろいろ混在しているのが人生だが、思い出すのは辛くて嫌だったことばかり。楽しく嬉しかったことはサッパリ残らない。目を背けたくなる辛くて嫌な思い出は、記憶の襞にこびりつき無意識の領域で成長する。睡眠中、無意識の部屋の扉が開き、新たな物語を勝手に紡ぐ――。

 試験の成績が悪かった私にとって学校時代は嫌な思い出ばかり。だから社会人になってからも中間や期末試験前日の夢をよく見た。まるで勉強していないのに明日から試験が始まる、さあどうしよう・・・目が覚めて、試験に焦る必要のない自分に気付く。また、会社勤めをしていたときも、仕事が面白くないので辞めることばかり考えて・・・にもかかわらず辞める意志表示がなかなかできない。実際に会社を辞めてから、会社に縛られつづける哀れな自分の夢をよく見た。

 もちろん、楽しいことも一杯あった。特に、会社を辞めた後、趣味と実益を兼ねた店を始めてからは毎日が充実していた。とにかく店に出ることが億劫だったことは一日たりともなく、これは学校や会社員時代とは雲泥の差である。リラックスすれば気持ちは自然に開放的となり、楽しい思いは現実の大気中に雲散霧消するのだろう。だから、夢の中で楽しい経験をしたことはほとんどない。

 嫌な思い出ばかりの人生だから、嫌な夢ばかり見る。けれど、夢を見ること自体はとても楽しい。現実の世界と、夢の世界と、パラレルワールドの人生になる。封印された記憶が解き放たれる睡眠中は超現実世界が新たに創造されて、だから夢ほど面白いものはない。

 今夜、どんな夢が見られるだろう。悪夢でもいいからエロスに満ちた物語が・・・。