散歩の街

 身体を鍛えるための様々な器具を備えたスポーツジムが誕生したのはいつ頃からか。今ではどの町にも多くのジムがあり、フロやシャワーも完備され料金も手頃で流行っているようだ。ダイエットや健康ブームに乗り遅れまいと、忙しい現代人には打って付けの施設らしい。

 じつは、私はそれらの施設を利用したことが一度もなく、今のところ積極的に利用したいとも思わない。外から窓越しに覗くことが度々あり、タオルを首に巻いた利用者がトレーニング姿でベルトの上を走ったり歩いたりしている。そして私はそれらの光景を見る度に、外気に触れながら街中を散歩する方がどんなに健康的かと自分に言い聞かせる。

 健康を維持するには適度に身体を動かすことがなによりだが、最も手軽で費用がかからないのが散歩だ。私は散歩が大好きで、長時間歩き回ることができる。歩きながらいろんなことを思い浮かべたり、道端に咲く花を見たり、鳥のさえずりを聴くのは楽しい。

 さて、どうせ散歩するなら、車の往来が激しい大通りに面した歩道や、コンクリートに囲まれて殺伐とした人混みより、樹木が生い茂り、川が流れ、池の水面が映える、そんな自然に恵まれた環境を歩きたい。たとえ街中でも近代的なビルの谷間より、昔ながらの古風な佇まいが並ぶ路地裏がいい。

 私が長年暮らした東京の池袋や大塚や巣鴨周辺は、緑が少なく、水気もなく、散歩に向いた街ではなかった。橋の下は川ではなく電車が走り、緑が多い場所とは雑司ヶ谷霊園や染井霊園という墓地であった。

 金沢はお城の周辺だけでなく、兼六園を初めあちこちに公園が散在し緑が豊か、犀川浅野川という二つの川が中心部を流れ、用水が網の目のように張り巡らされる。さらに武家屋敷跡や東西の茶屋街、そしてお寺が集中する界隈もあり、本当に金沢は散歩に適した街だなと思う。

 とはいえ、金沢は冬が長く年間を通して雨が多い。多少の雨や雪でも傘を差して私は散歩に出かけるが……しかし、スポーツジムで汗を流す人たちにとって外の私は「あの人なにしてるんだろう、冷たい雨に打たれて寒そうだ、風邪を引きそうじゃないか、ジムで汗を流せばいいのに、よほど貧乏なんだな、可哀想に…」と思われてる?