我欲の塊

 石原慎太郎東京都知事沖縄県尖閣諸島を「東京都が購入する」と発言して大きな波紋を呼んだ。民主党政権の対中国外交が弱腰と見て自らの強さをアピールするため、わざわざ米国まで飛び、米国を代表する保守系集団と綿密な打ち合わせをしてから強気な発言が演出された。ところが帰国直後の記者会見では、記者から東京都の税金を使うことや議会の承認に関しての質問を受けると一転して口ごもりトーンダウンする。

 これまで多くの識者が石原都知事の動向に対し真っ当な批判をしてきた。私のような一個人が似たようなことを今さら述べても後追いに過ぎないが、しかし同じ日本国に生きる人間として言わせていただく。

 今回の石原氏の発言で誰が一番喜んだかと言えば、じつは石原氏の嫌いな中国だろう。特に中国政府内の軍備増強を推進するタカ派勢力が大喜びしたに違いない。石原氏のお陰で益々「軍備増強」「尖閣諸島は中国の領土」と声高に国内だけでなく国際世論に訴えることができるようになる。ところで石原氏は中国は嫌いでも台湾は好きらしいが、しかしその台湾も尖閣諸島問題に絡んでおり、石原氏のお陰で日本と台湾との友好関係も微妙になりかねない。

 どんな問題にも双方の言い分がある。特に外交などでは意見が対立しやすく、周囲を省みず勝手に自分の主張ばかりを声高に訴えれば、結果として相手との距離は遠のき有益な結果をもたらすことはほとんどない。いかに時間をかけて水面下で地道な交渉を重ねられるかが問われるにもかかわらず、石原氏のようなスタンドプレーが積み重ねて来た長年の努力を瓦解させる。

 石原氏の妄動・失政失策は数限りない。新銀行東京の失敗、東京オリンピック招致の迷走、無駄な築地市場移転、視察と称した豪遊、数々の差別発言・・・。石原氏にとって東京都民が収めた税金とは自分への貢物で自分が勝手に使い込んでもいいと、とんでもない勘違いをしているようだ。

 昨年の東日本大震災直後に石原氏の「我欲による天罰・・・」発言が問題になり形だけは謝罪していたが、どうやら一連の言動を見る限り石原氏こそが「我欲の塊」である。

 一見して分かりやすい強気な発言をしたがる石原氏のような人物を見ると、懐のあまりの狭さ浅はかさに私には北朝鮮の体制と区別がつかず、こういう人物がトップで政治を遂行すればするほど国益は損なうと思う。石原氏にはリーダーシップがあると持ち上げる世論にはただただ呆れるばかり。