手段と目的

 もし信号機がなかったら、渋滞の激しい交差点などで事故が頻発し、多くの人がケガをしたり命を落とすかもしれない。だから、信号機は社会の中でとても重要な役目を果たしている。

 ただし、信号機は人間のために設置されているのであり、信号機のために人間は生きているのではない。深夜遅く、車が一台も通らない田舎道の横断歩道に信号機が点いていたりするが、そんな状況でも歩行者が信号を守らなければならないとしたら、それこそ人間は信号機のために生かされていることになる。

 都会の交通が激しいところなら信号は守った方がより安全であることは言うまでもないが、車も滅多に通らない道で歩行者は信号だからとルールを守る必要はない。(車と人を比べれば、車は強者で人は弱者。当然のこと、いかなる時でも車は人の安全のため交通ルールは遵守すべき。)

 ところで、日銀の黒田東彦総裁が2%物価上昇目標の達成に向け、消費税などで景気の落ち込みが懸念され始めた今、これまでより10兆〜20兆円もの追加の金融緩和策を決定した。その結果、株価は上昇し、円安が加速している。

 日本経済のカギを握る黒田総裁だが、この人は手段と目的とを理解していないのではと心配になってくる。黒田総裁の目的とは物価上昇を2%にすることだけで、人々のゆとりある安定生活への希求をすっかり忘れている。まさに、信号機のための人間で、人間のための信号機になっていない。

 消費税は上がり、勤労者の給与は下がり、非正規社員は増加の一途。格差が益々拡大する社会実態。それなのに、なぜ物価上昇だけを図りたいのか。

 「トリクルダウン」はアベノミクスのキーワード。これは富裕層がさらに豊かになり、富裕層がお金を使うことで、やがて貧困層にまでその恩恵が渡るという理論。つまり「お金持ちのおこぼれで貧乏人は生活しろ」と言っているに等しく、こんな庶民をバカにした理論があるだろうか。トリクルダウンなどまっぴら御免。

 物価を上昇させ、庶民生活を疲弊させ、富裕層のあぶく銭を大多数の庶民が口を開けて待っていなければならないなんて、手段と目的が転倒する安倍と黒田のアベノミクスは完全に失敗だ。