生きてゆくのは大変だ

 敵が99人いて、今は自分一人だけのような場合、一体どう対処したらいいのだろう。正面から立ち向かって行くのは堂々としてカッコいいが、ほとんど潰されるのは目に見えてる、だからサッサと逃げるのが一番かもしれない。

 しかし逃げればこれまでの自分の居場所が敵に占領されるわけで、これは明らかに敗北、今後益々自分の居場所は狭くなるだけだ。一人が99人に渡り合うためには知恵を出し、緻密な戦術・戦略を立てねば。

 どんな屈強な要塞でも必ず弱点はある。シロアリが巨大建築物を徐々に食い荒らすように、妥協するフリを見せかけ、相手の弱点をチクチク突きながら、ひとりふたりと少しずつ自陣に取り込むようにする。99対1が、いずれ80対20に、そして60対40になる可能性は十分有りうる…。

 十分有りうると思いたい…がしかしなかなか難しいだろう。実際、ミイラ取りがミイラになる可能性の方が大きい。
 
 生きてゆくのはいつの時代も大変で、不自由な社会になればなるほど自分の正体を隠しながら、心に秘密を抱えて生きざる得ない。そんな状況下では他者と接してもなかなか正直になれない。

 例えば、昔から人が集まる場所で宗教と政治の話はタブーとされてきた。食事中にそんな話をちょっとでも口にすると、せっかくの食べ物が不味くなるらしい。それにしても、自分の思想信条を隠しながら生きるしかないなんて、なんとも窮屈で息苦しく、自由な雰囲気からはほど遠い。

 それでも21世紀を迎えるまでLGBTが公になることはなかった。これまで長い期間、彼ら彼女らは偏見から異端視されてきたが、ここへ来てようやく社会に認知されつつある。まだまだ誤解や差別は根深いが、今現在は歓迎すべき方向性にある。

 宗教や政治や人種に関してもっとおおらかに語り合えたらいいが、ちょっと違うというだけでお互いすぐ感情的になってしまう。同色に染めようとしていがみ合うのではなく、違うことは素晴らしいという哲学をまずは根付かせたい。