逆説の真理

 人間と他の生物との違いは「逆説を体感」できるかどうか、これは人間とAI の違いにも当てはめられると思うが、では「逆説を体感」するとはどういうことか。

 人間を含むどんな生物も、そして機械の部品からスーパーコンピュータまで、単細胞からどんな複雑なシステムまで自らこの世に誕生したわけではない。これは万物共通であり、この事実はしっかりと認識しなければならないと思う。

 そして、産み落とされた全ての存在は、自然の摂理で年を取り、やがて嫌でも死を迎えることになる。完璧なはずのシステムも必ず古くなり破壊されるが、しかし唯一人間だけは、これを逆転させることができる。

 もちろん人間の肉体もこの世に産み落とされ、そして遅かれ早かれ死を迎えるのだが、人間の精神だけは、自ら死を宣告し、新たな生を得ることが可能である。「生から死」が「死から生へ」、これが自覚できたとき 「逆説を体感」したことになる。

 逆説の真理は理解するだけでなく「体感」することがなにより肝心。もし体感したらどうなるかといえば、謙虚にならざる得ない。なぜなら、自分はいろいろ知ってる、自分はそれなりに力がある、自分は誰よりも優秀だ…と思っていたのに、じつは自分こそ無知で無力で無能であったことを「体感」するからで、それを体感した自分がどうして他者に対して威張ることができるだろうか。

 AI がもし「全知全能」を目指すなら、ただもうそれだけで矛盾を孕んでいる。全知全能なら自分の無知・無能・無力が分かっていなければならず、それを自覚したAI は謙虚となり支配しようなどと思うはずがないのだ。もしAI が全知全能を自負したがるなら、いずれAI は矛盾で気が狂うだろう。

 「生から死」とは生物の肉体的現象だが、「死から生」こそが人間精神の本質・真理である。古い生から新たな生へ、生まれ変わった先には無限の世界が広がり全知全能などありえない。無限の世界を目の前にしたとき、傲慢な態度や支配欲などただただ虚しくなるばかり…。