壁を破る

 見えない、聞こえない、喋れない、想像を絶する三重苦を克服したヘレン・ケラーは世界的に有名だが、そんな彼女を教えた奇跡の人サリバン先生の努力はとても感動的だ。特に、ヘレンが水(water)という単語を初めて覚えるまでの並々ならぬ我慢と格闘、ひとつの分厚い壁を打ち破ることがいかに重要であるかを教えてくれる。

 どんな分野でも同じだが、新しいことに挑戦すればどうしても壁にブチ当たる。何度も壁に跳ね返され、それで諦めてしまうことが多いが、しかし大概の壁は努力次第でいくらでも打ち破れる。

 「分からない」のは大きな壁で、なぜ分からないかといえば、それは、分からないことが分からないからだ。分からないことが分かることで壁を打ち破り、大きく一歩前進できる。ただ、分からないことが分かるまでかなりの時間を費やすことは確か。分からないことが分かりさえすれば、一気に視界が良好になる可能性がある。

 日本や世界の現状を眺めていると、人類はひとつの大きな壁を打ち破れてはいない気がして、未だ壁の前で右往左往しながら歴史の前段階に留まっているかのようだ。差別を煽ったり、武器を持って威張りたがるのは、まさに人類が肝心なことをまるで理解していない証拠なのだろう。

 そうなのだ、じつは人類は未だ幼いへレン・ケラーのように、見えない、聞こえない、喋れないまま、理解することなく感覚だけを頼りに何も分からないまま彷徨っているだけなのかもしれない。果たして人類に、きちんと見えて、聞こえて、喋ることができて、そうして知性を働かせ新たな一歩を踏み出せる日は訪れるのだろうか。