風穴を開けるために

 昔と今とどちらが良かったか? そんなこと人それぞれだから分からないが、しかし今現在、日本国憲法が変えられるかもしれない情況を「良い時代です」と気軽に口にすることはできない。

 さらに、人はだれもが年を取れば取るほど身体も心も衰え、だから元気だった若い頃を懐かしみ「昔は良かった」とついつい思いたがる。そうなる気持ちも分からぬではない。

 さて、私はどうか。私は私自身のみを顧みたとき「昔より今現在の方が良い」と断言したい。世の中がどんどん悪くなる、皆が不幸になってゆく。だがしかし、私だけでも幸せになってみせる…それくらいの気持ちを抱かないと生きて行けないと思うから。

 本当に私のこれまでの人生は運が良かった。そしてこれからも、身の回りで良いことが益々つづくことだろう…と勝手に思い込むことにする(笑)。

 一方、どんな人も後悔しない人生を送ることはできない。年老いてから過去を振り返り、もっとやりたかったとの思いがいろいろ出てくる。もっと勉強しておけばよかった、もっと旅行すべきだった、あのとき脱サラして店を持てばよかった。だが、もっとも切実な後悔は恋愛に関することかもしれない…もっと恋愛したかった。

 恋愛は人生のすべてではないが、時代が困難を極めると、現状を打破するもっとも有効な手段は恋愛することではないか。社会が刑務所化する中、表現の自由は制限され、益々生きづらくなるだろう。だが、恋愛はどんなに管理が徹底しようと、もっとも制限しにくい領域で、人が人を好きになることまで押さえつけることはできない。

 とにかく重要なことは他者を好きになること。人類愛みたいに大仰に構える必要などなく、身近な人を好きになる。一方的でいい、片想いでいい、憧れだけでもいい、恋愛は淀んだ空間に風穴を開けてくれる。昔より今の方がずっと良くなる、恋愛するなら…。