超高齢(97才)の母親と同居しているとときどき物が紛失する。ハサミや茶碗、ティッシュ、新聞、衣類、食料品…等々、数日前にはテレビのリモコンが消えた。
紛失した品々は探せばがならず見つかるが、常識では考えられないような場所から発見されることが多い。植木バサミが冷蔵庫の野菜ケースに隠れていたこともあった。
なぜ紛失するかといえば母親が隠してしまうからだ。母親はもちろん意図したわけではなく、本人は自分の行為をまったく覚えていない。
小物ばかりだから生活に直接影響を及ぼさないとはいえ、普段から目にしている物が突然消え失せるのはやはり気持ち悪い。それが頻繁に起こると非常に困る。
さて、テレビのリモコンだがどこを探しても見つからない。小さな家の狭い部屋なのに、どこを探しても見つからないのだ。こんなことは初めてだ。いったいどこに隠れてしまったのか?
エドガー・アラン・ポーに「盗まれた手紙」という有名な小説がある。大切な手紙が紛失したので室内の隅々到るところを探してみるが、しかし、どうしても手紙を見つけ出すことができない。果たして手紙はどこに? じつは、手紙は意外な場所から…。
あらゆる引き出し、戸棚の奥の奥、机の下やダンボールの中まで探してみたが、テレビのリモコンは見つからない。これぞミステリー、本当に不思議でならない。エドガー・アラン・ポーの「盗まれた手紙」を思い出した。
人間の思い込みは、とんでもない盲点を作り出し、時として大きな間違いを犯す。赤色のはずが青色になったり、目の前の物を見失ったりする。リモコンはどこへいったのか? 肝心なことを忘れてやしないか?
もしかして、家の中で小さな時空の歪みと捻れが生じ、リモコンは異次元世界へ移動してしまったのだろうか?