フランスという国

 フランスという国から何を連想するか。人それぞれだろうが、私ならやはり芸術と観光、そしてワインを含む料理である。文学や美術は奥深いし、世界一観光客が訪れるし、料理は東洋の中華料理と並んで西洋の王様だし、ワインといえばフランスだ。おそらく多くの人が私と同じく、世界中でも特に文化の豊かな国だと思っている。

 自由・平等・博愛(友愛)に象徴されるよう、歴史上フランスでは人民が市民革命を通して人権を確立させてきたとの印象も強く、市民革命を一度も経験したことのない日本とはひとり一人の人間に対する「個人」への意識が決定的に違う。

 文化が豊かで、なにより個人を尊重する社会を築き上げたことから、世界中で最も先端を走る国と言っても過言ではないと思う。フランスは大国であり、フランスの影響力は少しも衰えていない。

 そんなフランスだが、エネルギー事情に関すると、じつに80%近くを原子力発電に頼っている。すなわちフランスという国は原子力がなければ成り立たず、極端に言うとフランスとは世界における「危険な解放区」なのだ。自由・平等・博愛(友愛)を重んじる風土だが、その風土は原子力発電が支えているわけである。

 「原発が支える豊かな文化」というフランスの現実は、私には何とも複雑な感情を抱かせる。地震が頻繁な日本と違い、フランスでは地震が起きないからエネルギーの原発依存は可能、という意見に説得力はない。今後、人為的なミスや経年変化から大事故が発生することはいくらでも考えられる。

 さて、人類の未来を考えるとき、フランスは原子力依存から脱却することができるだろうか。エネルギーを原子力から転換しつつ、豊かな文化をさらに維持・発展させることができるなら、フランスは真の意味で時代の先端を走る手本の国となる。

 いや、フランスに頼るわけにはいかない。じつは日本こそ、脱原発を実現し、経済を安定させ、東西南北融合した文化を構築しつつ、未来に向かわねばならない。地震国で、原発大事故を経験した日本だからこそ、走らなくてもいいから時代の先端を歩く見本の国となるべきなのだ。