いざとなったら逃げる

 東日本大震災の後、津波対策のため巨大な防潮堤が東北の太平洋側沿岸を中心に全国に建造されようとしている。だが、これは見直すべきだ。海の景観が破壊されるし、どんなに頑丈で高い防潮堤であろうと、その強度や高さを凌ぐ地震津波が襲ったら、被害は拡大するばかりだからだ。

 巨大防潮堤の建造は、表向きは「海岸沿いの住民の生命・財産を守るため」という理由だが、実際はゼネコンの利権がからんでいることは誰も疑わないし、要はカネモウケが本音で、いわゆる「ショック・ドクトリン」の典型である。

 かりに、人命と財産を守るための防潮堤であったとしても、これは周囲に壁を築くことで、いざとなったとき人間は動かなくてもいい、コンクリートが守ってくれるという発想となる。逆だろう。危険が迫ったとき、人間は真っ先に逃げなければならない。いざとなったとき人間は果敢に行動すべきなのだ。

 韓国の珍島(チンド)で旅客船セウォル号」が沈没し、不幸にも大勢の犠牲者が出てしまったが、その大きな要因として「動かないで」という指示が客に出されていたことが挙げられる。パニックになり人々が勝手に行動すれば混乱するだけで、確かにこれまた犠牲者が多く出る可能性があるが、だからこそ集団として秩序ある行動がいざとなったときに求められる。それが出来るためには日頃からの訓練が必要だ。

 海の近くで暮らしているのに巨大防潮堤で肝心の海が見えないとなると、これは最悪。海の変化をつねに見て、海を知ることがなによりも大切だからだ。もし地震が起きて津波が予想されたなら、即安全な高台へと避難するべきである。安全な場所への避難対策にこそ時間とカネをかけるべきで、コンクリートに労力を使わない方が懸命ではなかろうか。

 災害や事故だけじゃなく、世間の動向、社会の変化、人の暮らしがこの先どうなるか分からない。妙なこだわりを抱きつづけて気持ちが固定すると命への危険度が増す恐れがある。いざとなったらさっさと逃げる。柔軟で軽々とした身体でいたい。