直近との会話

直近:相変わらず元気そうだね。ところでいつも何をしてるのかな。

私:見かけほどでもない、ごく普通だよ。とくに大それたことをしてるわけじゃなく、映画を観たり、読書したり、ウイスキーを呑みながらジャズを聴いたりしてるだけさ。

直近:なかなか良い趣味じゃないか、これからもつづけたらいい。長生きするかもしれないぜ。

私:馴れ馴れしいので、つい相手にしたが、さて、君はいったい誰だっけ?

直近:ハハハ、こりゃ失敬、あまりに近すぎて気が付かないらしい。僕だよ、僕。

私:???

直近:僕だよ。あなたの心にいつも巣食ってるもう一人の私だよ。

私:もう一人の私? ああ、なるほど、これは自問自答というやつだな。それにしてもなんで急に目の前に現れてつまらないことを尋ねるんだ。

直近:そんなに不思議がることないだろう。じつは、最近のあなたを見てると、自分を省みることをしていないようなので、ちょっと気になったんだよ。だから、とりあえず分かってほしかったのさ。あなたが映画や読書やジャズを好きなことくらいもちろん知ってるけどね。

私:自分を省みることをしていないだと? そんなことないだろう。オレはいつでも自分に問いかけ、自分を見つめ直してるつもりだが。

直近:勝手にそう思い込んでるだけじゃないのか。僕から見ると、あなたは現在の生活にひたすら埋没している。確かに表向き政治経済や外国の動向に関心を寄せ、いかにも分かった風だが、ただそれだけだ。ただそれだけで自己満足してる。その証拠に窮屈で不自由な世界に安穏として、そして惰性を貪るばかり。

私:平穏無事ではいけないのか。確かに私の世界は小さい。大海に漂う半径5メートルの浮き島さ。私は一人ぼっち、この孤独感が心地よいのだ。

直近:一人がいけないと言ってるわけじゃない。むしろ孤独への徹底が足りないのさ。あなたは真の孤独者ではない。あなたは孤独を装う単なる偽善者だ。

私:失礼な、何を言うか。私は一人で孤独だ。

直近:自分を省みて孤独に徹するなら、半径5メートルの世界がどんなに広大かを知るだろう。

私:意味が分からない。何を言いたいのだ。

直近:泳げないなら飛び込まなくていい。でも、もっと遠くの海を意識したらどうかね。

私:海を忘れてるとでも言いたいのか。

直近:よく考えろよ。今回はこの辺でサヨナラするが、あなたが偽善をつづけるかぎり、また再び目の前に現れることになる。それじゃ、また。