内なるビッグバン

 ヒッグス粒子が発見されたかもしれないと世界的ニュースになった。なぜ物体に質量があるかといえばヒッグス粒子のお陰だという。科学の力で宇宙や生命の謎が次々と解き明かされるのは、専門家ではない私のような素人ですら興奮する。

 宇宙の年齢は137億才らしい。理論や観測で、今から137億年前のビッグバンにより宇宙が始まったことがほぼ証明されている。天文学や物理学の進歩で宇宙の起源まで遡ることができるようになったとは本当に驚く。神秘に満ちた漆黒の大宇宙が、地球というちっぽけな惑星の、これまたちっぽけな人間という生物によって光りが当てられ、全体像が見えるようになってきた。

 確かに人間はちっぽけだ。しかしだからこそ、人間は宇宙という最も大きな存在の謎に挑む。大と小は相反することなく、両者はいつでも密接な関係にある。殺戮と破壊を繰り返すバカな人間だが、一方で相対性理論量子力学を生み出した人間はエラいとも思う。

 ところで、ビッグパン以前はどうなっていたのか? インフレーション理論が有力らしいが、無から生じたとか、ゆらぎがあったとか…なぜ? なぜ? と突き詰めれば結局は分からなくなる。宇宙の起源と宇宙の全体像が解明されても、では、そもそも宇宙はなぜ誕生したのか? その根源的な謎はどんなに時代が進んでも永遠に残ることだろう。

 ふと、自分の内部に視線を移す。人間の心とは小さな宇宙のようなものだ。自分の存在や人生について、なぜ? なぜ? と問いつめれば、結局は何がなんだか分からなくなる。しかし、ある時、ある瞬間、それらたくさんの謎に囲まれて、分からないということが分かる。その時、心の闇が晴れ渡るかもしれない。

 分からないことが分かっても、自ら抱く多くの謎は解明されるわけではなく、謎は謎のままだ。しかし「闇が晴れ渡る」そんな変化が心に生じれば、それはビッグバンではないか。人間の内なるビッグバンである。人生観や世界観が、一気に拡大するかもしれない。