経済報道に欠落していること

 フランスの大統領選挙で現職のサルコジ氏が落選し、新たにオランド氏が当選した。結果、早くもフランス周辺国だけでなく遠く日本まで影響が懸念されている。サルコジ氏の緊縮財政からオランド氏の経済成長への転換が、財政再建へまとまりかけたユーロ圏に再び亀裂が生じるのではとの不安があるからだ。同時期のギリシャ議会選挙でも緊縮政策が否決されたし、何より足並みを揃えていたドイツとの関係がうまくいくかどうかが心配らしい。

 だが、それにしても、過去5年間のサルコジ大統領の政策を見る限り、フランス国民がサルコジ氏に対してNO!を突きつけたのは当然だと思う。人種差別的な言動そのものが大統領としてそもそも失格だし、肝心の財政への取り組みも矛盾だらけだった。国民に節約を訴えながら、自分たちは豪遊しまくり富裕層を厚遇する。貧困層から血税を搾り取ることで財政を再建しようなんて勝手過ぎる。

 緊縮政策を実行したいなら、まずは富裕層から増税し格差を縮小しようと目指すのが筋である。不公平な現実をなんとか是正し、少しでも公平な社会を実現させようと努力してこそ政治家のはずだが、残念というか始めからサルコジ氏では無理なことは分かっていたはずだ。

 次期大統領オランド氏はどうなるか。経済成長を訴えるのはいいが、富裕層にメスを入れられるかどうかが何より問われる。社会党出身だから十分に分かっているはずだが、もし不公平を見直せずに現状維持がつづくなら、あっという間に支持は下落するだろう。

 多少のデコボコはあっても多くの人々が納得する公平な社会における今後の経済をどうするか、それの政策論議ならまだ分かる。しかし圧倒的格差が拡大する現状において、緊縮政策か経済成長かが問題の本質ではないだろう。緊縮であろうと成長であろうと、富の分配が公平かどうか、不公平な現実に対して富裕層や支配層への改革がどこまでできるかだ。

 以上はフランスだけでなく、世界中の「先進国」も「進行国」も含めた全ての国々の問題で、ヨーロッパもアメリカもロシアも、日本、中国、韓国、インド等のアジアも、現状において基本はほとんど同じだ。

 すこし前、どこかの新聞に「これから先の経済状況について、良くなるのか、悪くなるのか、どちらでも質問者が望む通りに語るのが経済評論家」と専門家を皮肉るコラムが掲載されていたが、まったくその通りで、経済評論家ほどデタラメで無責任な職業はない。

 大昔から今日に至るまで強者と弱者との力関係は、じつは基本的にちっとも変わらない。だからこそ、弱者救済のため経済の立場から未来を志向する現実的な政策を提示すべきなのに、多くの経済評論家は難しい専門用語でわれわれ庶民を煙に巻く。経済の専門家のほとんどが権力側の番犬だから彼らは決して本質を語ることはない。