「ころす」という落書き

 私の地元石川県で最近、「しちようころす」という落書きが輪島市庁舎でいくつも見つかり大きなニュースとなった。1階玄関やマイクロバスのフロント部分など計4か所で発見され、同市は「市長殺す」と読めるため輪島警察署に被害届を出した。ニュースが大きくなったのは、じつは金沢市長宛てにも3月と4月に「がれきを受け入れたら殺す」と脅迫はがきが届いていたからだ。

 震災がれきに関して、石川県では輪島市が最初に受け入れを表明し、つづいて金沢市が手を挙げた経緯がある。特に、輪島市としては5年前の「能登半島地震」で全国から支援を受けたので恩返しの気持ちが強く働いたのだろう。ただ、受け入れを表明したものの、放射能拡散を恐れる地元住民の反対は根強く、直接がれきを受け入れるまでには至っていない。

 さて、以上の報道を見聞しながらいろんな疑惑が湧いてきた。まず、「ころす」と落書きしたり脅迫はがきを送りつけたのが、がれき受け入れに反対する側からと額面通り解釈しない方が懸命だ。何か裏がありそうで、じつは土建及び産廃業者を取り巻く周囲からの「やらせ」ではないか? と深読みはいくらでもできるのだ。

 がれきを受け入れることで少しでも甘い汁を吸いたい陣営にとり、受け入れ反対の意見は邪魔で仕方なく、反体する住民たちのイメージダウンを図るため策を弄したのかもしれない。というのも「能登半島地震」の後で地元中小建設業者のほとんどが復興事業で「談合」していたことが発覚し、高額な罰金の支払いを裁判所から命じられている現状がある。生き残りのため業界は陳情しているが、わずかでもカネになるなら藁にもすがりたい心境であろうことは察しがつく。

 一方、「世界農業遺産」に選ばれた能登の歴史や観光をはじめ、石川県全体の印象が悪くなることを嫌がり、どんながれきでも反対という人もいるらしい。だから単なる落書きを深く読み過ぎるのも禁物かもしれないが・・・。

 落書きの本当の真意は分からない。しかし、「しちようころす」という、いかにも稚拙を装う言葉の背後で、関連する人々の複雑な思惑が蠢いているのが透けて見える――。