河川敷を散歩しながら

 私の住居のすぐ傍ではS川が流れる。河川敷を行ったり来たり、私はよく散歩する。奇麗に刈り取られた芝生の緑、青い空と白い雲、遠くに連なる山々のシルエット、そして水のせせらぎ、いつまでも眺めていたい。

 カルガモの親子が泳ぎ、サギは魚を狙って微動もしない。カラスとトンビが大空を舞いながらときどき喧嘩している。ピッ、ピッ、と鳴きながらセキレイが辺りを飛び交う。さらに青大将が芝生を這っているのを、また水面をくねっているのを見かけたりする。

 川の中州の雑草や川縁の樹木も今は鬱蒼と茂っているが、秋も深まり冬が近づくと葉もすっかり落ちて丸裸になる。やがて雪が降り積もり、辺り一面真っ白になる。春になれば散歩道の桜並木は満開となり、初夏を迎えて草木はふたたび青々と輝きを増す。色とりどり、四季の変化を思う存分楽しめる。

 橋を渡る途中でひと休みしながら周囲を眺めれば、芝生に横たわる人、犬を連れて散歩する人、ジョギングする人、サイクリングで風を切る人、川面に釣り糸を垂れる人・・・なんて平穏なのだろう。

 しかし、私がいま見ている風景は表の世界のほんの一部に過ぎない。この風景の向こう側では、借金に苦しむ人、介護に疲れた人、病気で寝たきりの人、仕事に失敗した人、人間関係で悩む人、災害で住居を失った人、戦争に翻弄される人・・・いろんな人が同時に生きている。私がいて、他の人がいて、知らない人がいて、出逢うかもしれない人がいて・・・

 ・・・いや、想像は止めにしよう。今は、ただのんびりと、目の前の穏やかな景色に身を溶け込ませ、心が和むひとときを味わうことにしよう。私はS川を愛し、河川敷の散歩が大好きなのだから――。

 9月に入り朝方はもうすっかり涼しく秋の様相である。日中の元気なセミの鳴き声もいつしか消え去り、夜にはスズムシが合唱している。