書物の効用

夢とは無縁の不眠症は現実そのものに支配されているのだろう
眠れない人生はまどろみの悦楽を知らず大変な不幸を背負うことになるだろう
原因はおそらく本人の無意識の領域における理想と現実のズレが痛みのない傷口として険しい 渓谷の断崖絶壁のように裂けているからだろう
ところで世間には科学・哲学・芸術に関する数々の書物が溢れているだろう
それらの中身が面白くて読み耽ることは誰にも経験があるだろう
そんな書物の中身は確かに優れているのだろう
だから作者は人々の興味をそそり人生を啓蒙するものを表現したがることでとんでもない勘違い をするのだろう
偉大な書物は数ページひもとくだけで睡魔をもよおさなければならないだろう
人々に熟睡という最高の悦楽を与える手段としての書物こそが誇らしいだろう
何が書いてあるのか問うことは重要とはいえ最善ではないだろう
何冊かの書物を人々に与え何ページ目に睡眠に落ちたかを競わせると面白いだろう
ただしそれにはスラスラ読めて一応内容が分かるものを条件とすべきだろう
経典のような理解不能なものや難しくて読めない漢字や意味不明の記号がやたら多かったりす  る書物は論外だろう
人生における不眠症の克服は人生における幸福の追求に等しいだろう
書物は勉学や博識のためよりも人生を忘却できる睡眠のためにこそあるべきだろう