「幼年期の終わり」や「2001年宇宙の旅」で有名なSF作家アーサー・C・クラークに「神の鉄槌」という作品があり、これは小惑星が地球に衝突することが確実になったときの人類の動向を描いた近未来小説だ。私は未読であるため詳細な内容までは知らないが、要はいつの日か地球に小惑星(巨大隕石)が衝突することは間違いなく、この作品は大きな問題提起を促しているようでとても興味深いのである。
46億年に及ぶ地球の歴史において巨大隕石は数えきれないほど地上に落下衝突してきた。アメリカはアリゾナ州のバリンジャー・クレーターの写真は有名だし、シベリアのツングースカ大爆発も隕石が原因ではないかと言われている。何といっても6500万年ほど前に恐竜を絶滅させたのはメキシコのユカタン半島に衝突した小惑星だったとの説が有力だ。
21世紀の現時点で巨大隕石が地球に衝突する可能性は限りなくゼロに近いが、しかし、いずれ必ず衝突する日が訪れる。被害は人類が経験した大地震や大津波レベルを遥かに凌駕するだろうし、破壊力において現在の原爆や水爆よりも格段に上となり、想像を絶する事態になることは間違いない。人類はその時どのように対処するだろうか。
人類はただオロオロするだけ、手をこまねいて恐竜のように滅亡するのを待つしかないのか。さすがに何もしないわけにはいかないだろう。小説「神の鉄槌」では1千メガトン級の核爆弾を用いて小惑星の軌道を変えることに成功し、人類はかろうじて難を免れるらしい。つまり、危機に瀕して全世界から賛否を募り、最終的に人類は「核力」すなわち「原子力」の助けを借りるわけである。
いずれ隕石は衝突する。回避するためには「核」の力が必要。だから今からでも遅くない、人類はさらに高度な「核兵器」や「原発」を開発しなければならない――などと私は単純に原子力を擁護したいわけではない。現時点において私は核兵器にも原発にも強く反対する。ただ、原子の力に眼を閉ざすわけにはいかないことをまずは訴えたいのである。
地球に衝突する巨大隕石の軌道を核爆発で変えることなど容易にできるはずがない。しかし、地球外においてどうしても核の力に助けを請わなければならない日が訪れるかもしれない。その時、人類は非常に重い選択を迫られることになる。問題は、SFの世界が現実化したとき、地球上で人類は果たしてどんな社会を構築しているかである。