道まちがえた?

 私は特別な才能も技量も持ち合わせていない平凡な人間だが、それでも比較的得意だと勝手に思っている分野はあり、それは絵の世界。子供の頃、学校の勉強など全然しなかったが、その代わりマンガに関しては読むだけじゃなく描いてばかりいた。絵画を中心とした美術の世界は昔から大好きだし、今でもデッサンをすればそれなりに上手だと自惚れている。

 一方、私にとって縁のない不得手な分野は何かといえば、それは音楽(聴くだけならJAZZは大好きだが…)。中でも楽器の演奏ははるか遠い彼方〜、といった感じだ。

 高校時代を思い出す。私の通った学校の吹奏学部はなかなか優秀で、数々のコンクールで上位入賞を果たしていた。ある日のこと、クラスメートで吹奏楽部の一人が私に入部しないかと声を掛けてくれた。欠員が出たらしくホルンを吹いてみないかと言う。初めて楽器を触る人でも大歓迎、親切丁寧に教えるとも言ってくれた。ホルンと聞いて私は、トランペットやサックスのような目立つ存在ではなく、オーケストラの端で吹く丸い形をした地味な楽器だなと思った。

 そのときの私は楽器に特別興味もなかったし、クラブ活動で長時間拘束されるのがイヤだったので断った。では、派手なトランペットやサックスなら入部したかといえば、もちろんそんなことはなく、私にとって音楽の世界は聴くだけ、楽器の演奏なんて想像外だったのだ。

 あの時…、と今にして思う。吹奏楽部に入ってホルンを担当していたら、ひょっとして興味を抱き無中になっていたかもしれない。楽器を演奏する楽しさにのめり込み、音楽という人を酔わせる無限の世界を探求しつづけることになっていたかもしれない。

 さらに、もしかして、その後…、ベルリン・フィルウィーン・フィルは無理だとしても、地元金沢のオーケストラくらいに入って今も活躍していたかもしれない…、などと妄想が延々とつづく。結果は分からない。しかし、ホルンで私の人生が大きく変わった可能性は否定できない。

 道をまちがえた? 上手い下手は別にして、どんな楽器でも演奏できる人が羨ましい。好きだった絵の世界にも入ることができなかった私は、今さら人生の軌道を大幅に修正するつもりはないが、生まれ変われるとしたら、今度はなんでもいから楽器に携わってみたいとつくづく熱望するわけである。