アイヒマンになってはいけない

 東京五輪中止を求める声が日に日に増し、ひょっとして小池都知事が6月の都議選を前にそれを言い出すのではとの憶測も膨らむが、おそらく五輪返上を口にする度量と勇気を小池百合子は持っていないだろう。彼女は豊洲市場問題で都民を裏切った過去があるので信用ならない。 

 しかし、東京五輪中止の可能性がないわけではなく、新型コロナの感染がさらに拡大し、東京も大阪のように医療崩壊すれば、五輪などできるわけがないので嫌でも中止に追い込まれる。(菅政権の対応を見る限り、口とは裏腹に彼らは五輪を中止したいのかと思えてしょうがない。)

 さらに、もしアスリートたちの中から出場辞退が増えるなら中止の可能性は大だ。現実的にアスリートは本当に弱い立場にあり、海外選手から出場辞退が出たとしても、日本選手にそれを期待するのはまず無理だろうけど。

 混迷の最中、アスリート自体に責任はないかのような言説も目立つ。しかし、アスリートだからといって批判の対象から外すわけにはいかない。彼ら彼女らには一体何のためにスポーツをしているのかを問いかけよう。言われるまま真面目に仕事に励んだ「ナチス・ドイツアイヒマン」にアスリートもなってはいけないからだ。

 昔も今も、スポーツの監督やコーチは選手に対し「自分の競技についてだけ集中しろ、自分が一番になる、自分が新記録を作る、ただそれだけを考えろ…」とかなんとか相変わらず教えてるんじゃないか。野球のことだけ、サッカーのことだけ、相撲のことだけ、走ることだけ、泳ぐことだけ…ユダヤ人を強制収容所に送ることだけ。

 スポーツでも何でもそうだが、選挙権を得た18歳以上なら、自分の分野だけでなく政治・経済を中心に社会問題についても考えるよう教えることこそが監督やコーチなど指導者の勤めのはずだし、他者に言われる前に本人自身が学ばないと。でなければ人間として成長しないし、成長できない人間が各々の狭い分野で一流になれても人間として三流以下になりかねない。

 繰り返すがアスリートたちに問いかけたい。あなたたちは現在の「ボッタクリ男爵がトップの極悪五輪」のために自分の実力を一生懸命発揮したいのですか? 医療崩壊に手を貸したいのですか? 何に対して真面目に真剣に取り組まなければならないのか、それを考えてほしい。アスリートだけでなく、これはじつは私たち一人ひとりが常に問われる命題なのである。