50年

 現在50年に及ぶ著作権の期限が切れ、1965年に死亡した江戸川乱歩の作品が「青空文庫」で読めるようになった。「心理試験」や「D坂の殺人事件」などの名短編だけでなく、「怪人二十面相」も載ったのでさっそく読んでみる。この作品は私が中学校に入る頃に読んだ記憶があり、以降、シリーズ化されていた少年向け推理小説に当時夢中になったものだ。

 今、改めて「怪人二十面相」を覗くと、漢字にルビは打ってあるし、ひらがなは多いし、いかにも少年向けの体裁で、あまりに懐かしく私は一気に読了してしまった。中身はほとんど忘れていたので、どんな話かと興味津々だったが、さすがに現在の価値基準ではまったく通用しないと思われる。なにしろ1936年の作品なのだから仕方ない。

 それでも私は優しい言葉遣いで透明感のある分かりやすさに感心した。つまり、ジャンルを問わず、ノーベル賞級の深い中身が中学生でも理解できる作品こそが、本当の意味で素晴らしいのだと思う。

 さて、50年といえば、我が家に50年前の重量級が居座っていた。今後、時間をかけ少しずつ家の中を整理整頓するつもりだが、その第一弾として百科事典を処分することに。じつはこれは約50年前に購入した小学館の「大百科事典」で全18巻もある。一巻だけでも随分厚く、全18巻の総量となるとかなり重い。

 若い頃の私が実家でもっとも目を通したのがこの百科事典だった。懐かしく処分するのはもったいない気もするが、帰郷して丸7年間、ただの一度も開いたことはないし、第一、今やネットの時代、50年前の事典に価値があるとは思えない。

 処分する直前、念のため一巻だけ開いてみたが、そのあまりの字の小ささに閉口、これではまったく読む気がしない。郷愁に浸ってる場合じゃない、とつくづく思った。それにしても今時、紙の百科事典を利用してる人っているのかな。

 全18巻の「大百科事典」を処分しただけで、家の中がずいぶん身軽になったような気がするが、それは単に重量だけでなく、50年という時間の沈殿が狭い家の一角から払拭されたからでもある。